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第65話 地味男子の顔を守るには、少しだけ地味じゃない動きが要る

last update تاريخ النشر: 2026-10-09 14:58:00

 久瀬湊人は、自分が受け身のままでいられる段階を、たぶんもう少し前に過ぎてしまっていたのだと思う。

 文化祭の非常階段で、声が少しだけ漏れた時点で。

 打ち上げに来られなかった夜、短いメッセージを送った時点で。

 教室へスーツの男が入ってきた時点で。

 そして昨日、校門の外の視線が“本人だけではなく生活ごと見ている”と共有された時点で。

 もう、“隠していれば何とかなる”の段階ではない。

 もちろん正体はまだ知られていない。

 でも、何かがあることは、窓際の面々にも、そしておそらく学校の外の連中にも、かなりの精度で伝わり始めている。

 だったら次に必要なのは、ただ隠れることではない。

 むしろ、学校生活を守るために、少しだけ先回りして動くことだ。

 そう思ったのは、水曜の夜だった。

 ベッドの上で、スマホを伏せたまま天井を見る。

 家側の窓口へ
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  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第66話 みんな薄々わかってるから、一人で抱え込むのが一番だめになる

     久瀬湊人は、昨日の昼休みから放課後にかけて、自分が思っていた以上にきれいに包囲されていたことを、木曜の朝になってようやく実感していた。 一人で校門の外を見に行こうとした。 それは、自分の中では“少しだけ状況を把握するため”のつもりだった。 窓際の皆をこれ以上巻き込みたくないという気持ちも、本当にあった。 でも結果として、それは全方向から止められた。 真白には「一人で抱え込んで動くな」と切られ、 すばるには「そういうとこだよ」と呆れられ、 紬希には静かに「次しないで」と言われ、 日野には「最初から反対」と軽く言われ、 朱莉には「地味男子の動きじゃない」と現実的に処理された。 誰一人として、真正面から怒鳴ったわけではない。 でも、だからこそ逃げ道がなかった。 みんな薄々わかっているのだ。 何か外側の事情があること。 それがかなり面倒なこと。 そして、自分がそういう面倒を“言わずに一人で引き受ける方”の人間だということまで。「……完全に読まれてるな」 朝、登校途中の道で小さく呟く。 読まれているのは秘密の正体ではない。 もっと手前の、人としての悪い癖だ。 全部は言えない。 でも、それを理由に一人で動く。 そういう流れを、最近の窓際はもうかなりの精度で見抜いてしまう。 それは面倒だ。 でも同時に、少しだけ楽でもある。 少なくとも、もう一人で全部を背負って平然とした顔を作るのは難しいのだと、向こうが先に理解してくれているから。     ◇ 教室へ入ると、日野が珍しくこちらを見るなり笑った。「お、来た」「おはようございます」「今日は単独偵察なし?」 朝一からそれを言うのか、と湊人は少しだけ

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     久瀬湊人は、自分が受け身のままでいられる段階を、たぶんもう少し前に過ぎてしまっていたのだと思う。 文化祭の非常階段で、声が少しだけ漏れた時点で。 打ち上げに来られなかった夜、短いメッセージを送った時点で。 教室へスーツの男が入ってきた時点で。 そして昨日、校門の外の視線が“本人だけではなく生活ごと見ている”と共有された時点で。 もう、“隠していれば何とかなる”の段階ではない。 もちろん正体はまだ知られていない。 でも、何かがあることは、窓際の面々にも、そしておそらく学校の外の連中にも、かなりの精度で伝わり始めている。 だったら次に必要なのは、ただ隠れることではない。 むしろ、学校生活を守るために、少しだけ先回りして動くことだ。 そう思ったのは、水曜の夜だった。 ベッドの上で、スマホを伏せたまま天井を見る。 家側の窓口へすぐ確認を入れるべきか。 AstraLink側にも、学校近辺の不審な視線について共有するべきか。 あるいは、まず自分で一度だけ校門の外を見に行くべきか。 選択肢はある。 だが、そのどれもが“地味男子・久瀬湊人”のままではやりづらい。 少しだけ、外側の顔に寄らなければならない。「……でも、やるしかないか」 小さく呟く。 このまま見られ続けるのは嫌だ。 窓際の空気ごと観察されるのも嫌だ。 真白も、すばるも、紬希も、日野も、もう十分巻き込まれている。 守りたいなら、自分も少しは動かなければならない。 ただ受け身で申し訳なさだけ抱えていても、何も減らないのだから。     ◇ 翌日、木曜の朝。 教室へ入ると、窓際の空気はいつも通りの形をしていた。 日野が眠そう

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    御門朱莉は、人の視線そのものより、視線が何を拾っているかを考える方だった。 誰かが誰かを見ている。 それ自体は、別に珍しいことではない。 廊下で噂の相手を探す目。 教室で好きな人を追う目。 先生が提出物を出していない生徒を探す目。 生徒会が風紀の乱れを見つける目。 人は日常的に、何かを見ている。 だから重要なのは、“誰が見ているか”ではなく“何を見ようとしているか”の方だと、朱莉は昔から思っていた。 そして今、校門の外や駅前に現れるあの連中が見ているものは、もうかなりはっきりしている気がした。 久瀬湊人本人。 それはもちろんそうだ。 でも、それだけではない。 誰と帰るか。 誰が隣に立つか。 誰が先に気づくか。 学校の中で、どの位置にいる人間なのか。 つまり、対象そのものではなく、対象の“生活の輪郭”を見ている。「……感じ悪い」 昼休み、校舎の渡り廊下から校門の外を見下ろしながら、朱莉は小さく呟いた。 ただ尾行するだけならまだ単純だ。 でも、周囲の人間関係まで観察しているとしたら話は変わる。 それはもう、単なる接近ではない。 対象の社会的な位置づけを掴みにきている。 家側の私設警護でもなければ、週刊誌の張り込みとも少し違う。 もっと事務的で、もっと乾いた調べ方。 だからこそ、朱莉の中では“身辺調査”という言葉がかなりしっくり来ていた。     ◇ その日の放課後、朱莉は校舎裏に近い渡り廊下へ先回りした。 別に久瀬を待ち伏せたわけではない。 ただ、彼もたぶん今日の駅前の件を整理したいだろうと思っただけだ。

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     下校ルートが少し変わるだけで、こんなにも“いつも通り”は別物になるのかと、久瀬湊人は水曜の放課後に思い知らされていた。 大げさな話ではない。 ただ、 できるだけ一人で帰らない。 校門を出るタイミングをそろえる。 駅までの道を、なんとなくまとまって歩く。 やっていることは、それだけだ。 それだけなのに、少し前までなら自然にばらけていた放課後が、今はゆるやかに一つの流れへまとめられている。 しかもその中心には、かなり高い確率で自分がいる。 ありがたい。 でも、ありがたさと同じくらい、居心地の悪さもあった。 自分の事情のせいで、 みんなの帰り方が変わっている。 その事実を、最近の湊人は前より強く意識してしまう。 前なら、もっと鈍くいられた。 自分の外側の事情と学校生活は、別々の箱に入れておけばいいと思っていたからだ。 でも今は違う。 窓際のあの空気が、自分一人の箱の外へ広がってしまっている。「……面倒だな」 小さく胸の内で呟く。 ただしそれは、嫌だという意味だけではなかった。 守られていることを自覚してしまう面倒さであり、守られたぶんだけ何かを返したくなる面倒さでもあった。     ◇ 五限目が終わった頃から、教室の空気は少しずつ放課後へ寄っていく。 机の中へ教科書を戻す音。 廊下の向こうで、部活の仲間を呼ぶ声。 今日もどこかのクラスでは委員会があるらしく、資料を抱えて走る生徒がいる。 いつもの学校の夕方だ。 そのはずなのに、窓際の五人のあいだだけは、最近ずっと小さな確認事項が増えていた。「今日、日野どこまで

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    倉科紬希は、基本的に自分から流れを変える側の人間ではない。 誰かの提案に頷くことはできる。 必要なら静かに手を貸すこともできる。 でも、場の進み方そのものを変える一言を、自分から先に置くのは少し苦手だ。 たとえば昼休みにどこへ行くかとか、 帰りに寄り道するかとか、 そういう小さな選択肢ですら、誰かが先に言ってくれた方が楽だった。 それなのに最近は、その“先に言う”を少しだけしなければならない場面が増えている。 久瀬湊人のことになると、とくに。 弱っている時は飲み物を渡したくなるし、 しんどそうなら「無理しないで」と言いたくなるし、 学校の外の嫌な気配が近づいているなら、「一人にならない方がいい」とも思う。 思うだけで終われば、今までの自分のままだった。 でも、最近はそれを口にしないでいる方が、もっと落ち着かない。 好きだから、という言葉にしてしまえば簡単なのかもしれない。 でも紬希の中では、それはまだ少しだけ照れくさくて、少しだけ怖い。 ただ一つはっきりしているのは、 “守りたい時だけ、少しだけ勇気が出る”ということだった。     ◇ 水曜の朝、教室へ入る前から、紬希は少しだけ緊張していた。 理由は昨日の共有だ。 すばるが気づいた、校門の外の視線の質。 本人だけでなく、誰とどういるか、どう帰るか、そういう人間関係ごと見られているかもしれないという話。 その認識が入ってしまったあとでは、昨日までと同じ“ただ一緒に帰る”ではいられない。 少なくとも自分の中では。 もし本当に見られているなら、 誰かが一人になる瞬間とか、 帰り道でばらけるタイミングとか、 そういうところが一番危ないのではないか。

  • 『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』   第61話 オタクは、推しを追う目で不審者もちゃんと見る

    鳴海すばるは、自分の観察眼をあまり立派なものだと思ったことがない。 便利だとは思う。 でも、便利な方向がだいぶ偏っている。 配信中に推しの声がいつもより少し低いとか、 コラボ相手に対する距離感がちょっとだけ違うとか、 笑い方のあとに一拍だけ沈黙が入ったとか。 そういう、“普通の人はそこまで見ないだろ”みたいなところばかりを拾ってしまう。 だから学校生活でその能力が役に立つかというと、微妙だった。 テストの傾向を読むとか、 先生の機嫌を察するとか、 そういう一般的な方向へは、そこまで強くない。 なのに今、なぜかその観察眼が、一番ありがたくない形で役に立ち始めている。 校門の外の知らない大人たち。 入れ替わり立ち替わり現れる“学校に似合わない静けさ”。 そして、その人たちがどういう時間帯に、どんな位置で、誰を見るように立っているか。「……なんで覚えてるんだろ」 火曜の夜、自室のベッドに転がりながら、すばるは天井へ向かって呟いた。 答えはわりと分かっている。 好きなものを見る時のクセと、たぶん同じなのだ。 気になる対象がいて、その周辺の変化が日常の一部になると、勝手に目と耳が記録を始める。 それが推しに向く時は楽しい。 でも、学校の外の不審者っぽい大人たちに向く時は、ただただ面倒だ。「オタク能力の使いどころ、間違ってない?」 誰にも聞かれない部屋でそう呟きながら、それでも頭の中ではすでに整理が始まっている。 昨日の男は、火曜の朝は歩道の左。 月曜の黒い車は少し遠め。 教室まで来たスーツ男は、相馬系じゃない。 そして今朝のやつは、通学の

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